***
「……沙耶です」
『ん。入り』
私の背丈二つ分ぐらいある高さの大きなドアについているインターホンを押し、そう言えば、聞こえた父親の声。
ガチャン、と、いう鍵が開く音と共にドアを開ければ、
「久しいな、沙耶」
黒い椅子に腰を掛け、母さんの腰に手を回した父の姿が。
「相変わらずね、父さん」
「そうか?……君は、顔が険しいで?」
「……父さんに似たからね」
「……僕は、もうちょっと、愛想あると思うんやけど。僕、あんな顔をしとるか?ユイラ」
私と同じ容姿をしていると言われる母さんことユイラは、微笑んで。
「そうね。他の人の前ではそうかもね。私の前では有り得ないけれど。……まぁ、柚香が被害に遭っているのなら、仕方がないんじゃない?」
「せやな。あ、沙耶、君に頼まれたもんなんやけど、そこにあるからな?」
父が指差した先、置いてある鞄を開ける。
「……本当、毎回思うけどさ、よく、法に触れないよね。父さん」
「まぁ、あんまり使わんしな。君はもう、御園の人間なんやから、法とは免除みたいなもんやない?相馬に頼めば、こんなもん、いくらでも手に入るやろ」
「……」
「……その様子やと、喧嘩ちゅうというのは本当みたいやな?」
「知ってるのね」
「僕を誰やと思うとるん?娘の君のことやったら、ある程度のことは分かっとる。脅迫状のことも、何もかも……君に儀式を受けさせない、相馬の気持ちもな」
「……」
父は、考えなしにものを言わない。
この瞬間、今、この場面で言うと言うことは、何か掴んでいるということだろう。


