「悪い」


キスとは、こんなものをいうんだろう。


私は彼に抱きつく。


「……夏渡、私のこと、好き?」


いつ聞いても、返ってこなかった返事。


夏渡の息を呑む音が聞こえる。


辛抱強く、その時を待つ。


「……好きだよ」


返ってきたのは、私がずっと欲しかったもの。


「私もね、好きだよ」


幼い頃から、何度も繰り返してきた言葉。


「だから……」


約束を果たしたい。


けれど、私の言葉を遮るように、彼は私の唇に人差し指を当てた。


「そういうことは、男が言わなきゃ」


「……」


夏渡は、微笑んだ。


そして、言う。


「俺と結婚してください」


私の、ずっと、欲しかった言葉を。


私は答える代わりに腕に力を込めた。


自分でも驚くほどに、心臓の音がヤバイ。


「……な?恥ずかしいだろ?」


私が抱きついたことを返事と受け取ってくれた夏渡は、私の背中を撫でながら、笑った。


私は苦笑して。


「ほんとね」


世界で一番大好きな、私の唯一欲しいものをくれる人の肩に顔を埋めた。