『キャー!』
……誰かの、嬉しそうな声が聞こえます。
応接間の“春舞の間”からです。
私は外に出る前に、覗くことにしました。
「なんの声?」
義姉さんたちも、不思議そうについてきます。
障子を開けると、
「―あ、お久しぶりです。皆さん」
知っている女の人が、微笑んでいました。
悠哉兄さんを、変えた人です。
「伊織!?え、本物!?」
「お久しぶりです。葵さん、御元気ですか?」
「元気、元気!そりゃあ、もう!」
伊織さんとは、母さんが面倒を見ていた人です。
家族をまとめて事故で喪ってしまった彼女は、母さんが可愛がり、美耶姉さんや義姉さんとも仲良くて、悠哉兄さんが……唯一、愛した人でした。
先程の叫び声は、美耶姉さんのようです。
淑やかで大人しい彼女は、自分と目を合わせてくれない悠哉兄さんのことを気にしながらも、笑っています。
「……お久しぶりです、真耶さん」
この人のことも、私は嫌いではありません。
とても、お世話になりましたし。
「久し振り。元気にしてました?伊織さん」
私は笑顔で、答えました。
悪いのは、優柔不断な兄。
私は、そういう見解だからです。
「はい。色々ありましたが……」
ふと、彼女の目に、闇が映りました。
何か、あるようです。
それでも、彼女は悟られまいと笑います。
彼女の指には、リングが光っていて……。


