だから……余計に、虚しくなったのだ。


将来、父の跡を継ぐわけでもないのに、どうして、こんなに苦しい思いをしてまで、家に縛られないといけないのだろう。


自由気質の母親をもった私には、理解できなかった。


色々とごちゃごちゃになって、落ち着きたいとき、泣きたいとき、苦しいときとか、とりあえず、何かあったら、私は木に登る癖があった。


そんな私に、私を見上げながら挨拶したのが絋だったのだ。


木から降りろとも、戻ってこいとも言わなかった。


そして、去っていった。


最初は新しく来た御園家の使用人かと思った。


絋に声をかけられてから、暫く、私は自分の人生を振り返り、文句を言い、そして、絋という男の存在思い出していた。


考え事をしたせいか、はたまた、お昼を抜いたせいか、お腹が空いたので、私は木を降りた。


運動が苦手な私が唯一できる、木登り。


それが『はしたない』ことは、知っていた。


知っていたけど、やめられなかった。


私の唯一の、息抜きだったから。


無事、地に降りると。


『……やっと、降りてきた。……御体、お大事になさいませ』


木の影、私からは見えないところで、絋は立っていた。


暖かそうな肩掛けと、水筒を手に。