だって、彼は優しすぎるのだ。
春だから、まだ、日は長い。
だから、大丈夫だと微笑むと、
「すぐに戻ってくるからね。そしたら、一緒に猫と遊ぼう?」
と、彼は言った。
今日、出逢ったばっかりなのに。
彼は、親切だ。
とても、とても、優しくて、穏やかで、彼の言動や好意に、私の心は乱されて。
(男の人相手に、変なの……)
恥ずかしい話だが、初恋はまだである。
昔から、物語を作るのが好きで、妄想ばかりしていて……その妄想で、自分を登場させることが苦手な私は、自分の身の上での恋愛を考えたことがなかった。
当たり前かもしれないけれど、今まで出逢ってきた人達のなかで、悠哉さんや、御園のみなさんは、みんな綺麗。
妄想も膨らむものだが……この人達の存在が、私をこの世に引き留めた。
言わば、命の恩人だ。
沙耶さんは文字通り救ってくれて、美耶は私の心を楽にしてくれた。
悠哉さんは短時間で、私を仲間に入れてくれると言ってくれた。
それが、例え嘘でも、私は嬉しくて。


