「……伊織、漏れてる」
「へっ、」
肩を小突かれ、顔を上げる。
「ぜーんぶ、心の声、漏れてるよ」
「え!?心の中で、言ったつもりだったのに!」
笑いながら、そう教えられ、私の頬は熱くなる。
(恥ずかしい……)
何を口走ったのだろうか。
妄想を始めると、止まらなくなる癖、本当、どうにかしたいものである。
両頬を手で包んでいると、悠哉さんが、私の背後に回って。
「─赤くなったり、青くなったり、だらしない顔したり……やけに、百面相の女の子ね」
「うん。可愛いだろ?」
私の耳を塞いだ上で、スッゴい美人と会話を始めた。
「気に入ったの?」
「うん。気に入った」
何を言っているのか、さっぱり……
「兄さんが笑うのなら、その女の子は唯一かもね」
「どういう意味?俺だって、笑うときは笑うじゃん」
綺麗に、音が入る隙間すらも塞がれてしまい、本当になにも聞こえない。
否、聞こえはするけど、ぼんやりとしててわからない。
「それは、表情筋の問題だから。ま、母さんも大したことはなさそうだし……兄さんは、楽しそうだし。吃驚したわ。いきなり、母さんから連絡が来るんだもの」
「え、まさか、それで?」
「ええ。伊織を見てほしいって。……デート中、だったのに」
話の内容はさっぱりだが、スッゴい美人さんが怒っているのはわかる。
「そっか。ごめんね、ちづ、拓斗」
「本当にね」
「こら、ちづ。……謝らないでください。これでも、千鶴も喜んでますし」
「え、そうなの?」
「悠哉さんが、お相手を見つけられましたからね」
「本当、兄弟のなかで一番上なのに、一番遅いんだもの」
ちづさんはそう言うと、(何言ったかは、不明)恋人と思われる人の手を取って、去っていく。
去り際の姿さえ、とても綺麗で。


