「……伊織?」
自分の変な感情に戸惑いつつ、この感情の名前を考えていると、顔を覗き込まれて。
「わっ、は、はい!」
私は慌てて、返事をした。
「ボーッとして……大丈夫?」
「は、はい!」
愁眉に細められた、目元。
本当、綺麗な顔をした男の人である。
お伽の国から飛び出してきたような、そんな人。
「フフッ、そんなに元気があるなら、大丈夫そうだね」
常に無表情で、何を考えているのか、わからない人。
美耶たちは、そう言っていたけれど。
彼は、よく笑う。
他愛もないことで、笑って、元気をくれる。
彼の笑顔を見ていると、私も笑いたくなって。
意味もなく、私たちは笑いあった。
そこへ―……


