ともかく、私は美耶のお兄さんのいう通りに、一階の応接室に向かった。
事故の時に履いていたサンダルは、家族の血で染められて。
現実を受け止めきれなかった私は、それを処分してしまった。
忘れたい、けど、忘れちゃいけない記憶。
人って、どうして、辛い記憶ほどよく覚えてて、よく、思い出してしまうのだろう。
どうせなら、幸せだった頃の記憶が良いのに。
―コンッ
「?……悠哉さん?」
私の考えを中断させるように聞こえた、窓を小突く音。
鍵を開ければ、彼が至近距離で微笑んだ。
「おいで、伊織」
おいで?
両手を伸ばされて、目をぱちくりとする。
「え、お、おいでって……」
「猫と遊ぶんでしょ?」
そういうことか。
待っててね、その一言が何を表していたのかを漸く悟り、私は恥ずかしさから、顔を覆った。
「伊織?」
イケメンは、ズルい。
何しても、格好よく見えてしまう。
『死んだ目をしてるのよ』
確かに、沙耶さんの言う通り、彼は常に目が死んでいる。
けど、今は。
この瞬間は、暖かさを感じる。
自分に向けられた、その無表情に。


