「お帰りなさい、伊織」
優しく微笑んでくれる、母。
「学校はどうだったかい?」
編み物をする、祖母。
「お姉ちゃん、お帰り!」
可愛い、双子の弟妹。
夜になれば、帰ってくる父親に、私の毎日は本当に幸せに満ち溢れていた。
「明日は、お出掛けしようね」
この幸せが、突然に壊れてしまうこともあるということを、私は知らなかったんだ。
―否、知ってはいた。
物語上では、よくあることだった。
絶望する主人公のもとに、運命の相手が現れて、ハッピーエンド。
それが、当たり前で。
私はそんな物語が好きだったけど、自分の身の上に当てはめたことはなくて。


