どのくらいの時間が経っただろうか。
ふと、伊織が顔をあげて、息をついた。
「一章節、書き終わった~」
原稿用紙、総数50枚ほど。
これを書き上げた伊織の腕はすごいな、毎度のことながら。
「一章節ってことは、まだ、あるの?」
「あ、はい。四章節で、完結予定です」
「まだ、道のりは長いわね……パソコンとか、本当に要らないの?」
「そこまで、ご厚意に甘えるなんてできませんよ。遺品の整理や、色んなことを手伝ってもらったんだから……」
伊織は、六人家族の長女だった。
お祖母さんと両親と、二人の弟妹。
とても、幸せな一家だったのに。
彼女は、一人、置いて逝かれた。
「もうすぐ、一年ですね……」
それが、私と出逢ってからなのか、家族を喪ってからなのか、私にはわからなかった。
「そうね……」
とりあえず、頷いていると。


