穏やかな時間が流れる。
鳥のさえずり、緑の揺れる音。
まるで、家にいるような気分になるほどに静かな、部屋。
「……ねぇ、伊織」
「はい?」
「今度は、どんなお話を書いてるの?」
「恋愛小説です」
伊織の趣味は、物語を書くこと……創作だ。
絵もうまく、自分で考えたキャラクターで話を仕上げる彼女の物語は、面白い。
「イケメンに会ったって言ったでしょう?美少女とか、イケメンとか、私に描く腕はないけれど……物語は、書けるから」
あんなことがなければ、今、高校生活を楽しんでいただろう伊織は、今日もペンを動かす。
まるで、現実から逃げるように。
「そう、出来上がったら、読ませてね?」
「はい、是非」
それからはまた、無言で。
伊織はペンを進め、私は本を開く。
これが、私と伊織のいつもの風景。


