「沙耶さんっ!」
明るく笑って、元気を装うこの子に、できることは何?
何度問いても、答えはでなくて。
「元気そうだね、伊織」
「はい!今日、とっても良いことがあって!」
芹川伊織(せりがわ いおり)は、爛々と目を輝かせながら、原稿用紙に何かを書き綴る。
「どんな、良いこと?」
頭を下げて、出ていく看護師さんにお礼を言い、私は伊織の傍の椅子に腰を下ろした。
「すっごい、イケメンを見たんです」
「イケメン?」
「はい!めちゃくちゃ、小説の案が思い上がって……今、書き綴ってます!」
今日は、心から楽しいらしい。
目に、光が宿ってる。
「じゃあ、書きなさいな。傍で見てるから」
「良いんですか?」
「一区切りついたら、時間をちょうだい」
「ありがとうございます!」
伊織は嬉しそうに、ペンを進める。
出逢った頃よりも、明るさを取り戻した顔。
今だ、食事は進んで食べれないみたいだけど、最初の頃よりも量は増えた。
それだけでも、大きな進歩だ。
今年で、17歳の伊織。
私の次女である、美耶と同い年で……良い友達。


