「それに、それらは私の服じゃないのよ」
「ええ?……適当に手直ししちゃったんだけど」
「ああ、それは、本人から許可はもらってるから。この病院にね、ある女の子がいてね、その子は家族全員を交通事故で失って……自分だけが生き残ってしまってさ、せめて、家族の形見であるものを、家族が買ってくれたものを、手元に残しておきたいって言うから……あんたに頼んだ始末です」
形見。
言われてみれば、サイズが小さいのがいくつかあった。
「俺なんかが、直して良かった?」
「ええ。私の息子に頼むわね、って言ってるから」
「そう。なら、良いけど」
母さんの年のことを考えて、控えめにした花の刺繍。
まさか、他人のとは。
しかも、黙って持たされるものだから、他人のものとは夢に思わなかった。
相変わらず、この母親は適当、雑な人である。
「に、しても……相変わらず、すごい腕よねぇ。我が息子ながら、自慢だわ」
「……母さんだって、やろうと思えばできるでしょ?」
服を手に、そういった母さん。
この人は、漫画のように何でも出来る人だと兄弟全員で認知している。
「やろうと思えば、ね。でも、ここまで精密なのは、流石に出来ないわよ。じっとしているの、大嫌いだから」
ニッコリと、言った母さん。
確かに、体が不自由といえど、動かしている時間の方が長そうだ。


