「左腕が使えないから、右腕までもが使えなくなったら困るってのはわかるよ?だからって、左腕を差し出したりなんかしてたらさ、周囲の人間が心配するとか考えないわけ?」


「……四十路にもなって、息子に説教されるとは」


何を言っても、母さんはかわすばかり。


面倒くさいことが嫌いな母親に、普段は、こんなことを言わない。言わないが……


「そこじゃないでしょ。大体、母さんは……」


「あー、分かった!分かったから!気を付けるから!年のせいで、骨が脆くなってるのは感じてる。相馬に説教されたから、もういい!」


年のせいとは。


そりゃ、四十路ですがね。



「そういう問題じゃ……」


「ってか、私に似て、面倒くさがりやのあんたが何で、そんなに私に説教するの?『面倒くさい』って、なにもしないようなあんたがさ」


「もっと、面倒なことが起こったからだよ……」


そう、母さんが怪我をしたせいで、色々と面倒事が起こったのだ。


「面倒な事?」


「母さんに怪我をさせたせいで、父さんがぶちギレて、裏で“処分”を繰り返してる。そのせいで詰まった仕事が俺に回ってくる上に、甲斐は不機嫌で、薫さんや桜さんにも迷惑をかけているし、翔だって……」


「おー、被害が大きいな。元凶は、相馬?なら、私、言っておくよ。『やめろ』って」


ここまで、口を開くのは初めてかもしれない。


そう思うくらいに、いろんなことに、僕は無関心で。