□蝶佳side■





篠原蝶佳。今年で、49。


私は、13年前、大切だったはずの親友を失った。


『もう、やめなよ!“はるくん”が可哀想!』


そう言った、あの一言が私達を引き離した。


『なあに?蝶佳。貴女まで、私から“はるくん”を奪うの?』


家の闇に囚われ、壊れていった親友。


『二度と、私の前に姿を見せないで』


それが、親友との最後だった。


私はなにもできなかった。


彼女の様子は正常ではないことは、誰よりもわかっていたはずだったのに。


私の間違えた言葉選びで、親友は……和子は、自殺してしまったんだ。


私に止める力があればと悔やみ、私はその闇の根元である御園の家で働き始めた。


理由は、和子みたいな人を生まないためだ。


彼女が遺した五人の子供たちがまっすぐな道を歩めるよう、私は見守っていたかった。


そして、道を違えそうになったら、命と引き換えにしても、彼らを止めるつもりだった。


御園という家の闇はとても深く、知っただけだったのに、私は恐怖で震えてしまった。


どうして、そう思うほどに御園の多くの人間は、闇に呑み込まれていった。


そんな彼らを完全に堕とさなかったもの……引き止めていたものが、彼らが愛した人間だった。


彼らが愛した人間は、彼らのことを同じように愛し、正常ではない愛を受け止め続けた。


時には、愛に耐えられず、愛人を勧めた正妻もいたが……


彼らが生きる意味は、なかった。


ただ、家の傀儡。


そんな感じ。