「御園の……婚姻って、なんなんですか?」
沙耶から聞かされる、“認められていない”という言葉。
蝶佳さんはこうして、沙耶に好意的だし、相馬の兄弟―総一郎さん、京子さん、水樹、氷月―も、沙耶のことはお気に入りのはずである。
なら、沙耶は御園の“誰に”認められていないのか。
蝶佳さんは一瞬、目を見開いて……
「……ああ、“沙耶さま”の為なんですね?」
微笑んだ。
「貴女みたいな親友を持って、幸せだと仰っていた意味がよくわかります。―御園の婚姻は、いつの間にか作られた、変な決まりがございますの。これもすべて……長い、歴史が歪ませた御園の闇なんですけれど」
「闇……?」
「ええ。お話をするのは、構わないんですが……長くなるので、上がっていきませんか?」
「っ、話してくれるんですか?」
「柚香さまが言いふらすような方だとは思えませんし……それに、“親友”が傷ついているのを知っていて、見過ごすことの辛さは、そして、その先に待っている悲しみの大きさは、私もよく存じ上げていますから」
いつだって、笑顔を浮かべている蝶佳さん。
そんな彼女が、この瞬間、“親友”の単語を出した瞬間、とても悲しそうな顔をしていたことには、私は気づかなかった振りをした。
何だが、触れてはいけないもののような気がした。
……彼女の過去のことには。


