「俺、一ヶ月に拘ってる訳じゃねーんだ」


書類に目を通し、サインをしながら相馬は話す。


(よく、車に酔わねぇな……)


揺れの少ない車と言っても、多少の揺れはあるのに。


そんな甲斐の思いとは裏腹に、相馬は呟く。


「本当なら、二ヶ月でも、三ヶ月でも、休みてーんだがな」


それは、相馬の“総帥”という仕事上、無理な話である。


「完全なる休みじゃなくていい。一日の半分でも、沙耶と過ごせれば、俺はそれで良いんだ」


相馬は、柔らかくなった。


沙耶を見つけ、愛し、双子が生まれてからは、余計に。


母親を憎み、嫌っていた相馬の姿は跡形もなく、今はただ、真っ直ぐに沙耶を想う。


(昔と変わったのが幼馴染みではなくても、信頼した女なら、大丈夫ってところか………)


見境なく、嫌っていた頃とは違う。


『ちゃんと見て、嫌え』


沙耶にそう言われたあの日から、相馬は人柄を見て、嫌うようになった。


(嫌いになる時点で、どうかとも思うけどな)


そこを追い詰めると、沙耶の考え方も異常ということになるので、そこで思考を止める。