「何なら、徹底的にしないとね?」


……こういうところは、如何かと思う。


「……そもそも、なんで、そんなことに……」


呆れ気味に尋ねると、若干、震えた声が後方から飛んできた。


運転しながらでも、信号で停まっても、俺は後ろを振り返ることなどせず、ただ、鏡に映る彼女の顔を眺めていた。


「始まりは、大したことじゃないんだよ?本当に……さっきの“儀式”の話に繋がったのは、本当に、大したことがないことだったの。それから話が広がって、“儀式”の話になって……」


喧嘩になったわけか。

久々に逢った夫婦だったのに。


鏡越しに見えた、悲しそうな、今にも泣き出してしまいそうな、そんな顔。


彼女はそんな顔をしていながら、『新しい、別の奥さんを……』と、いう。


彼女を心から溺愛している相馬さまは、それが許せないのであろう。


本当に愛しているからこそ、許せない。


男は自分の愛を疑われたら、悲しい。


愛した人が自分を信じていないことほど、悲しいことはない。


俺にだって、結婚するつもりはなくても、本気で、ずっと一緒にいたいと思う女はいる。


……彼女の幸せのために、俺はもうすぐ手放すことに決めているのだが。


(このままだったら、彼女は嫁ぎ遅れるから)


惚れた女の前では、どんな男もみっともなくなってしまう。


最強と詠われた“戮帝”だって、妻といる時間は、普通の男であったらしいのだから。


愛していて、一番に自分を信じていてほしい存在に疑われるのは、とても苦しい。