「思う」
あたしの言葉を聞いて木暮くんはきっぱりと即答した。
「リョウなんてめんどくさい男やめといて、俺にしとけばいいのにって思う」
「え?」
木暮くんの真剣な顔と思いがけない言葉に、驚いて彼を見上げると
「なんて、冗談。ごめん困った?」
と、メガネの奥の目を優しく細めて笑った。
「ちょっと、びっくりした。木暮くんがそういう冗談言うと思ってなかったから」
なんだ、冗談か。
一瞬ちょっとだけ本気かと思っちゃった。
ホッとて口元をゆるめると、木暮くんも笑った。
「人がよくて優しいのが俺の取り柄だもんな。こんな事言うの俺らしくないよなぁ」
頭をかきながらあたしに背を向けて歩き出した。
「なんか、上田さんずるいから意地悪したくなっちゃって」
「え? あたしずるい?」
なんか悪いことしたっけ!?
慌てて木暮くんに追いついて彼の顔を覗き込む。
「本当はただ誰でもいいから背中を押して欲しかっただけだろ?」
木暮くんはあたしを見下ろしてつまらなそうに口をとがらせた。


