すると、
「ちょっと、西野くん悪ふざけしすぎ。冗談が通じない子が、一人固まってるから」
先生が吹き出しながらコーヒーを差し出した。
悪ふざけ?冗談?
先生は混乱してボールペンを握りしめたまま立ち尽くしていたあたしにも、温かいコーヒーを渡して
「驚きすぎ。冗談に決まってるじゃない」
と肩を叩いた。
……そうか、冗談なんだ。
すごくいけない場面を見てしまったと思ってドキドキしたのに。
ホッとしながらコーヒーカップを受け取りソファーに座ると
「なんだ先生は、冗談のつもりだったんだ?」
なんて、意味深に唇を歪めて意地悪に笑う西野くん。
寝乱れたのか
いつもより皺くちゃの制服の襟元からちらりと見える
誰か知らない女の人がつけた
赤いキスマーク。
『寄ってくる女なら見境なしに手をだす』
『女の子をもてあそんですぐ捨てる』
みゆきちゃんたちの言っていた彼の噂を思い出した。
『結局女が選ぶのは、リョウみたいなヤツなんだよ』
不満げにそう言った木暮くんの言葉を思い出した。


