「そんな事ないよ!
由佳さんにどんな事情があったのかはわかんないけど
地下鉄で見た表情は絶対リョウくんを好きだって顔をしてたもん!
ふたりは絶対愛し合ってるように見えたもん……!」
彼の左手にすがりながら必死にそう言うと
その手に握られていた茶色のシュシュが音もなく白い雪の上に落ちた。
「……愛ってなに?」
リョウくんが
はっ……と鼻で笑いながらすがりつくあたしを見下ろした。
「そんなもん、幻想だろ」
冷たい声でそう笑った。
「幻想だなんて……」
そんな事ない。
だってリョウくんは確かに由佳さんを愛してるでしょ?
だからあんなに切ない顔で
彼女をみつめてたんでしょ?
綺麗な口角を歪め冷たく笑う彼。
「少なくとも俺は知らない」
白い雪の中にぽつんと落ちた茶色のシュシュが風に吹かれ頼りなく揺れていた。
「家族にすら愛されず育ってきた俺に、愛なんてわかるはずがない」
静かにそう言った彼は酷く傷ついているように見えた。
冷たい孤独に疲れ切ったように見えた。


