『拝啓 友恵さん お元気ですか?
 この手紙を読んでいるということは僕は元気のわけないですね。
 天国に逝けているといいです。
 地獄逝きでは友恵さんに会えないでしょうから。』

 なんて手の込んだ手紙。
 亡くなったら渡してと舞さんに頼んであったのだろう。

 私が地獄逝きかもしれないじゃない。
 それですれ違っちゃったらどうするのよ。

 空想の話なのに苦笑した。

『僕の最後で最大な秘密を舞から聞きましたか?
 聞かずにこの手紙を読んだら驚くでしょうね。

 僕は性機能障害でした。
 苦しんだと思われるかもしれませんが、なんてことはない最初からです。

 ですからそういうものだと思っていました。』

 だからって言って欲しかったわ。

 真面目で人を騙すのに向かない人だと思っていたのに、最初から最後まで騙されっぱなしね。

『しかし父は厳しい人で長男が結婚して子を作らないなど許さない人でした。
 そんな父に自分の性機能障害を打ち明ける気にもなりません。

 妻には最初から告げています。
 愛はなくて良ければとお互いに了承済みです。

 友恵さんの言葉を借りるのなら結婚不適合者は僕の方でした。

 子ども達は産まれてすぐに孤児になる子を妻がうまくお願いしてあったようです。
 知らないだけで、もしかしたら妻が誰かと不倫した子かもしれない。
 しかし僕にはどうでもいいことでした。

 子ども達には成人した時に告げています。
 例え血の繋がりはなくても僕の子だと思っているのでそこは安心してください。』

 どこまで騙しているのかしら。
 だって私は奥様とのことに散々妬いていて……。

『さて。どうしてこのことを友恵さんに黙っていたのか、嘘をついたのかと思われるでしょうね。
 それは僕の少しばかりの見栄です。』

 馬鹿な人。そんなことで………。

『僕が妻を愛していた。
 妻との子どもをもうけていた。

 そのことに友恵さんが妬いてくれる素振りを見せてくれるだけで良かった。
 捻れ曲がった想いで驚いたでしょう。

 それだけで愛されているんだという実感が持てて嬉しかったんです。』

 本当、馬鹿ね。
 そんなことしなくても私は………。

『そしてもう1つ。
 こちらの方が怒るかな。』

 まだ何かあるの……。
 あぁ。どうしてそんなことを………。

 全部を読み終えると、やっと浩一さんはいないんだという現実が目の前にやって来た気がして、浩一さんが亡くなってから初めて声を上げて泣いた。

 泣いても泣いても涙は枯れなくて、どうしてここに浩一さんがいないのだろうと嘆いた。

 私の幸せの全ては浩一さんなのに……と。