そのまま子どもを授かることはなかった。
更年期の間は生理が来たり来なかったりを繰り返して無くなっていった。
病院に通ったおかげであれ以来、辛い症状にならないまま。
子どもを授からなかったのは、それはそれで良かったのかもしれない。
ずっと恋人同士のように過ごせたから。
そう思えるまでに時間が必要だったけれど悲しんでいる時間はない。
何故なら私達には時間が無いのだから。
悲しんでいる暇はなかった。
残された時間を惜しむようにいつでも一緒にいた。
浩一さんは55歳で早期退職をして、私も亜里沙に店を譲った。
それでもオーナーとして気持ちだけだからとくれるというので有り難くもらっている。
たまに喧嘩をして、キスで機嫌を取ろうなんて、どれだけ若いつもりでいるんですか?
と窘めたりした。
そんな幸せな月日も流れて、お迎えの時間が来ていた。
お互いいつ来ても後悔しないように毎日を過ごしていたのに、やっぱり寂しくなる。
「すみません。
僕が友恵さんを看取ると言っていたのに。」
70歳。古希のお祝いを子ども達にしてもらって77歳の喜寿もしようねと言ってすぐだった。
あと20年。
出会った頃に言った通りになってしまった。
「いいえ。順番ですもの。
少ししたら私も逝くんじゃないですかね。」
当たり前だけれどお互いにしわだらけだ。
でも………。
「少しは眉間のしわが薄くなって目尻にしわが刻まれたかな?」
もう自分では手をあげることができない浩一さんの手を取って目尻に触れさせた。
そして布団の中にまた腕を戻した。
我慢していた涙が頬を伝う。
握った手はまだ温かいぬくもり……。
ずっと一緒にいたかった。
それでも悲しんでいる素振りを見せてはダメね。
私はたくさんの幸せをもらったんだから。
「えぇ。そりゃもう。
浩一さんとの時間は穏やかな時間でしたよ。
それに……舞さんや秀くんがよく顔を出してくれて、孫も来てくれるから寂しくないわよ。」
自分の子どもではないはずなのに可愛かった。
孫も本当のおばあちゃんみたいに「ばぁば、ばぁば」と呼んでくれる。
1人にはなりたくてもなれそうもない。
本当に浩一さんのおかげ。
「少しは悲しがって欲しいですね。」
残念そうにつぶやく浩一さんが愛おしい。
「馬鹿ね。悲しいに決まってる。」
無言の時間が続いて、もう疲れたのね。
寝かせてあげましょうと思った時に浩一さんが変なことを言い始めた。
「僕が先に逝ったら……福田くんに会ってくれませんか?」
「何、言ってるのよ。」
「福田くんになら友恵さんを任せられます。
きっとまだ彼は友恵さんのことが好きだから。
彼は僕に似てると思うんです。」
「もう。何言ってるのよ。
そんなわけないじゃない。」
まさか浩一さんに老後の恋人を心配されるなんて、笑うに笑えないわ。
「いいから騙されたと思って1度会いに行ってみてください。
福田くんと残りの生涯を共にすることになってもいいですよ。
ちょっぴり僕は天国で妬いちゃうだろうけどね。」
更年期の間は生理が来たり来なかったりを繰り返して無くなっていった。
病院に通ったおかげであれ以来、辛い症状にならないまま。
子どもを授からなかったのは、それはそれで良かったのかもしれない。
ずっと恋人同士のように過ごせたから。
そう思えるまでに時間が必要だったけれど悲しんでいる時間はない。
何故なら私達には時間が無いのだから。
悲しんでいる暇はなかった。
残された時間を惜しむようにいつでも一緒にいた。
浩一さんは55歳で早期退職をして、私も亜里沙に店を譲った。
それでもオーナーとして気持ちだけだからとくれるというので有り難くもらっている。
たまに喧嘩をして、キスで機嫌を取ろうなんて、どれだけ若いつもりでいるんですか?
と窘めたりした。
そんな幸せな月日も流れて、お迎えの時間が来ていた。
お互いいつ来ても後悔しないように毎日を過ごしていたのに、やっぱり寂しくなる。
「すみません。
僕が友恵さんを看取ると言っていたのに。」
70歳。古希のお祝いを子ども達にしてもらって77歳の喜寿もしようねと言ってすぐだった。
あと20年。
出会った頃に言った通りになってしまった。
「いいえ。順番ですもの。
少ししたら私も逝くんじゃないですかね。」
当たり前だけれどお互いにしわだらけだ。
でも………。
「少しは眉間のしわが薄くなって目尻にしわが刻まれたかな?」
もう自分では手をあげることができない浩一さんの手を取って目尻に触れさせた。
そして布団の中にまた腕を戻した。
我慢していた涙が頬を伝う。
握った手はまだ温かいぬくもり……。
ずっと一緒にいたかった。
それでも悲しんでいる素振りを見せてはダメね。
私はたくさんの幸せをもらったんだから。
「えぇ。そりゃもう。
浩一さんとの時間は穏やかな時間でしたよ。
それに……舞さんや秀くんがよく顔を出してくれて、孫も来てくれるから寂しくないわよ。」
自分の子どもではないはずなのに可愛かった。
孫も本当のおばあちゃんみたいに「ばぁば、ばぁば」と呼んでくれる。
1人にはなりたくてもなれそうもない。
本当に浩一さんのおかげ。
「少しは悲しがって欲しいですね。」
残念そうにつぶやく浩一さんが愛おしい。
「馬鹿ね。悲しいに決まってる。」
無言の時間が続いて、もう疲れたのね。
寝かせてあげましょうと思った時に浩一さんが変なことを言い始めた。
「僕が先に逝ったら……福田くんに会ってくれませんか?」
「何、言ってるのよ。」
「福田くんになら友恵さんを任せられます。
きっとまだ彼は友恵さんのことが好きだから。
彼は僕に似てると思うんです。」
「もう。何言ってるのよ。
そんなわけないじゃない。」
まさか浩一さんに老後の恋人を心配されるなんて、笑うに笑えないわ。
「いいから騙されたと思って1度会いに行ってみてください。
福田くんと残りの生涯を共にすることになってもいいですよ。
ちょっぴり僕は天国で妬いちゃうだろうけどね。」