そのあと一度だけと言う桜川さん……というか浩一さんに押され、不妊治療に通った。

 友恵さんとの子どもができるなら欲しいと言われ、自分も浩一さんの子どもなら欲しいと思い了承した。

 注射をしたり大変な思いをたくさんした。

 だいたい浩一さんの検査の説明の時に…。

「僕は友恵さんとじゃないと採取できません。」

 なんて宣言して恥ずかしい思いもした。

 先生が「自宅で採取したものを2、3時間のうちに持って来てもらえればいいですよ」とにこやかに言うものだから顔から火を噴くほどに恥ずかしかった。

 検査をして、お互いに問題はないので、年齢のせいでしょうと言われ、年齢も年齢だからと体外受精をしてもらうことになった。



 体外受精をして結果と今後の予定を聞きに行く日に浩一さんがどうしても都合がつかなくなってしまった。

「いいよ。私が聞いてくるから。」

「そんなのずるいです。僕が聞きたい。」

 ずるいってなんなのか。
 たまに思い出すように意思の疎通が困難になる浩一さんに笑うしかなかった。

「じゃ浩一さんが行ってください。
 どんな結果でも正直に教えてくださいね。」

 体外受精も育たなければ、また治療をし直さなければいけない。
 精神的にも体力的にも、それに金銭的にも大変だった。

 お金のことは気にしないでという浩一さんに甘えているのも申し訳なかった。

 そして……本当は分かっていた。
 私に一人で行かせたくなかったのだ。

 残念な結果の時に悲しみを一人で背負わせないようにと浩一さんの心優しい配慮なのだ。


 帰って来た浩一さんは浮かない顔をしていて聞かなくても結果は良くなかったんだと伺えた。

「いいじゃない。
 浩一さんが望むならもう1回くらい挑戦してみましょう。
 私だって浩一さんとの子どもが欲しいわ。」

 潤んだ瞳を向けられて、抱きついて来た浩一さん自身が子どものように泣いた。
 そんなに私との子どもが欲しかったのだと思うと申し訳ない気持ちが溢れそうになる。

「もうやめましょう。
 僕は友恵さんさえいてくれたらいい。」

 涙で濡れた声は思い描いていたものとは違う台詞だった。
 諦めたくなるほどショックだったのだと思うと頑張ろうよとは言えなかった。

 何よりも浩一さんが揺るぎない気持ちで言っているのが伝わって反論する余地はなさそうだった。