「ここは賃貸ですよね?
買おうとは思わなかったんですか?」
どこか新しい場所に引っ越そうかどうしようかと話していると、不意にそんなことを口にした。
賃貸じゃなかったらさすがに桜川さんでも家に呼ばないですけどね。
とは言わないでおいた。
長年屈折していたものはそう易々と真っ直ぐにはならないらしい。
それなのに桜川さんは相変わらず真っ直ぐだった。
しばらくは妊娠していた頃と変わらず毎日来て「愛しています」と囁いた。
ふとした時に悲しくなる心は桜川さんによって癒されていった。
「自分のお店を持つ時に女ってだけで苦労しました。
なかなか融資も決まらなくて……。
どれだけ男だったら良かっただろうって思ったわ。
だからマンションを買うなんてまっぴらだったんです。」
「自分のお店なんですね。」
また言っていないことがあった。
しかも割と重要なことじゃない?
カットはしてあげたことがある。
鏡を見ると桜川さんが自分を見つめていて気恥ずかしくなった。
その時はマンションだったし……。
「言ってなくてごめん?」
「いいえ。
きっと私も言ってないことあります。」
そうね。
少しずつ知っていくのも悪くないかもね。
「マンションを買わなかったのは……独身者がマンションを買ったら終わりって言うじゃないですか。
ペット飼ったり。
それも少しはあったかな。」
「そんなこと信じる人だったとは意外です。
また新しい友恵さんを発見しましたね。」
楽観的……だなぁ。
「そうですね。変わるとは思えないですよね。
犬でも飼えば良かったです。
そうすればこんな大型犬に捕まることもなかった。」
ちょっと意地悪な視線を向ければ、含み笑いをしてとぼけた顔をした。
「大型犬って僕のことですか?
それじゃ友恵さんは猫ですね。
どこかつかみどころがなくて、僕の手をすり抜けていくんだから。」
そう言って私を抱きしめる桜川さんが恨めしい。
捕まえているじゃない。
しっかり鎖までつけて。
指輪は職業柄つけられないと伝えたらネックレスと指輪をプレゼントされた。
それがまたネックレスに指輪を通すと憎くらしくなるほどにとても似合うものだった。
で、つけざるを得なくてつけている。
これじゃまるで首輪ね。
「今は飼い猫でしょ?」
ネックレスを指して言えば微笑む桜川さんにこちらもつられて微笑むと頬にキスをした。
結婚は足枷だと思っていた。
それが今はとても心地いい。
………今のところは。
買おうとは思わなかったんですか?」
どこか新しい場所に引っ越そうかどうしようかと話していると、不意にそんなことを口にした。
賃貸じゃなかったらさすがに桜川さんでも家に呼ばないですけどね。
とは言わないでおいた。
長年屈折していたものはそう易々と真っ直ぐにはならないらしい。
それなのに桜川さんは相変わらず真っ直ぐだった。
しばらくは妊娠していた頃と変わらず毎日来て「愛しています」と囁いた。
ふとした時に悲しくなる心は桜川さんによって癒されていった。
「自分のお店を持つ時に女ってだけで苦労しました。
なかなか融資も決まらなくて……。
どれだけ男だったら良かっただろうって思ったわ。
だからマンションを買うなんてまっぴらだったんです。」
「自分のお店なんですね。」
また言っていないことがあった。
しかも割と重要なことじゃない?
カットはしてあげたことがある。
鏡を見ると桜川さんが自分を見つめていて気恥ずかしくなった。
その時はマンションだったし……。
「言ってなくてごめん?」
「いいえ。
きっと私も言ってないことあります。」
そうね。
少しずつ知っていくのも悪くないかもね。
「マンションを買わなかったのは……独身者がマンションを買ったら終わりって言うじゃないですか。
ペット飼ったり。
それも少しはあったかな。」
「そんなこと信じる人だったとは意外です。
また新しい友恵さんを発見しましたね。」
楽観的……だなぁ。
「そうですね。変わるとは思えないですよね。
犬でも飼えば良かったです。
そうすればこんな大型犬に捕まることもなかった。」
ちょっと意地悪な視線を向ければ、含み笑いをしてとぼけた顔をした。
「大型犬って僕のことですか?
それじゃ友恵さんは猫ですね。
どこかつかみどころがなくて、僕の手をすり抜けていくんだから。」
そう言って私を抱きしめる桜川さんが恨めしい。
捕まえているじゃない。
しっかり鎖までつけて。
指輪は職業柄つけられないと伝えたらネックレスと指輪をプレゼントされた。
それがまたネックレスに指輪を通すと憎くらしくなるほどにとても似合うものだった。
で、つけざるを得なくてつけている。
これじゃまるで首輪ね。
「今は飼い猫でしょ?」
ネックレスを指して言えば微笑む桜川さんにこちらもつられて微笑むと頬にキスをした。
結婚は足枷だと思っていた。
それが今はとても心地いい。
………今のところは。