そんな幸せも長くは続かなかった。

 夜、なんとなく違和感を覚えて起きた。
 トイレに行って愕然とする。

 出血が………どうして?
 ちょっとなんてもんじゃない。
 普通に生理が来たみたいな雰囲気だ。

 陽性に……線が出ていたと思ったのに………。

 目眩に頭を押さえながら寝室に戻ると桜川さんがベッドから顔を出した。
 異変を感じたように飛び起きると駆け寄ってきた。

 友恵は絞り出すように声を出す。

「血が………。ごめんなさい。
 妊娠してなかったみたい。」

 よろめいて桜川さんに支えられた。

 目眩は出血による貧血なのかショックのせいなのか………。
 失望していそうな桜川さんの顔が見られない。

「体は平気なのですか?
 いいんです。妊娠していなくてもいい。
 友恵さんさえ大丈夫だったら……。」

 こんな時まで私を気遣ってくれる桜川さんに涙がこぼれた。
 あんなに妊娠を喜んでいたのに。

「ごめんね。……ごめんなさい。
 本当に………。」

 何度言っても足りなくて、それなのに涙で言葉がつっかえてしまう。

「謝らないで……。」

 掠れた声に桜川さんも泣いているのが分かった。
 抱きしめている体は震えている。

 こんな風に桜川さんを悲しませなくなかった。

「私が……もっと丈夫で赤ちゃんを産める体だったら。
 ううん。せめてもっと若かったら……。」

 抱きしめたままの桜川さんはかぶりを振った。

「どんな友恵さんでも僕は友恵さんがいいんです。
 しわくちゃのおばあちゃんになったって愛せる自信があります。」

 涙でぐちゃぐちゃになった桜川さんが顔を覗き込んで目と目の間にキスをした。

「明日、病院には行きましょう。
 友恵さんの体が一番大切ですから。」