「で?桜川さんをマンションに入れたどころか合鍵を渡したの?」

 驚くと思ったから言いたくなかったのに。

 理香子には付き合い始めたことを話した。
 すぐさま「じゃ結婚するのね?」と言うので、どうなっているのかを大まかに話したのだ。

「結婚した?とか聞くくせに合鍵の方が驚くわけ?」

「だって友恵、男は家に連れ込まない主義でしょ?」

「えぇ。そうなんだけど。」

 昔、自分のテリトリーを荒らされたくないという理由を理香子に話したら野良猫だと笑われた。
 野良猫じゃないわ。家があるもの。と反論すれば余計に笑われた。

「そんなにはまってるの?」

「はまってるって…………。」

 電話をしながら帰るマンションの玄関。
 置いていった大きな革靴が鎮座している。

 こういうの嫌だったはずなのに許している自分がいる。

「年取って丸くなったのかしら?
 友恵が丸くなるのなんて想像できないわ。」

 電話口で笑う理香子に些かムッとする。

「自分だって想像できないわよ。
 ただ………そうね。
 すごくはまってるのかも。彼に。」

「どうしたの。素直じゃない。」

「すごく好きなんだって思うの。
 ふとした時にすぐにでも会いたいわ。
 私らしくないでしょ?」

 また大笑いする理香子に、あーぁ本当にらしくないとため息を漏らす。

「いいと思うわ。彼喜ぶわね。」

「桜川さんには言えないわ。」

「どうして?」

「これ以上、自分の気持ちを明かしたら、彼以外何もいらないとかとんでもないこと言っちゃいそうで。」

「言ってあげればいいじゃない。」

「嫌よ。私の方がすごく好きみたいじゃない。」

「近頃の友恵はすっかり小学生ね。」

 ひとしきり笑われた後に電話を切った。