「良かったと思っています。
 母とは愛が無かったので。」

「え?奥様と?」

 質問するつもりはなかったのに、つい口を出ていた。
 だって愛はあったって桜川さんが……。

「はい。母とです。
 子どもには分からない部分もあったと思いますが……。
 母といた時は穏やかなだけのただの置物のような人でした。
 だから今は見た事のない表情をしてるなぁとよく思います。」

 確かに大人は大人の世界があって子どもの計り知れないところでは奥様と愛し合っていたかもしれない。
 何より子どもだっているんだし。

 子どもは愛が無くても作れるかもしれないけど………。

「父はなかなか会えなくて寂しがっていましたが、恋人の方が迷惑に思ってなければいいんですけど。
 友恵さんならどうですか?」

「え?私ですか?」

 なかなか会えないってちょっと前の情報よね。
 この前、あんなに………。

 思い出すだけで赤面しそうになって、慌てて平常心を取り戻す。

 質問に答えなければ……。

 父の恋人に質問するなんて、試されているような気がして緊張する。

「そうですね。
 私なら……そうですね。
 好きな人と一緒にいられるなら幸せだと思いますよ。」

 見繕っても仕方ない。
 思ったままを言うだけだ。

「父の恋人もそう思ってくれてるといいです。
 友恵さんみたいな人だったらいいな。」

 鏡に映った村上さんはにこやかで晴れやかな顔をしていた。
 やっぱり桜川さんの娘さんだわ。と、こちらも晴れやかな気持ちになった。