早めに帰ればいいからと桜川さんが次に行きたいと言ったのは初めて会った日の夜に2人で飲んだあのバーだった。

 バーに入ると私達を見て微笑んだマスターがまたカクテルをご馳走してくれた。

「お2人に。」

 というマスターに2人で顔を見合わせた。

 桜川さんの前にはカクテルグラスに注がれている白色のカクテル。
 友恵の前にはカクテルグラスに琥珀色が綺麗なカクテルだった。

「桜川さんへはXYZ。
 友恵さんにはサイドカーです。
 このカクテルはベースが違うだけで似ているんですよ。」

 それだけ説明してくれて離れていった。



「前にもご馳走したもらいました。」

 感慨深く話す桜川さんに驚いた。

「ここに来ていたんですか?」

 やっぱりと言うべきなのか、ここによく来る人だったんだ。

 危なかった。
 あの時は見つかりたくなかったんだもの。

「初めて図書館で見かけて約束した時に喫茶店に来てくれなかったので、この辺を探し回りました。
 見つからなくて諦めてここに入ることにしたんです。
 1杯飲んで帰ろうと。」

 それでここで会ってしまったんだ。

「約束って私は了承してなかったです。」

「そうですね。僕は甘かった。
 だから次は逃げられないように厚かましいくらい友恵さんの視界に入ってやろうと。
 そして悩ませて僕を忘れられないようにしようと……。
 失礼なことをたくさんしました。」

「えぇ本当に。」

 俯く桜川さんはテーブルに影を作って、その顔を上げない。
 懺悔のつもりなのだろうか。

 哀愁漂う桜川さんに冷たく言ったのに我慢できなくて吹き出した。

「笑うなんて失礼です。
 僕は本当に………もういいです。」

 拗ねた桜川さんはやっぱり可愛くてまた笑えてしまった。