手を離した桜川さんの寂しそうな顔が目に焼き付いて買い物なんて楽しめなかった。

 道の真ん中で抱き合うなんて恥を晒してるようなものだと思うのに桜川さんの発していた熱が頭からも体からも離れない。

 買い物は桜川さんの顔がチラついてどこの何を見て何がいいのかも分からなかった。
 時間の無駄だと気付いて早急に終わらせると電話をした。

「うちでいいので来てください。
 住所送りますね。」

 自分もマンションに戻る道を急いだ。

 帰ってもまだ桜川さんは来ていない。
 当たり前だ。
 きっとシャワーを浴びて服を着替えて来るに決まってる。

 ダメ。早く会いたい。
 どうしてこんなに求めてしまうのか。

 手持ち無沙汰でベランダから外を眺めると、そういえばここでのんびり風景を見ることは無かったことに気づく。
 太陽は高い位置にあって日差しが眩しい。

 きっと桜川さんと暮らせば、風景の移り変わりを穏やかな気持ちで眺められるだろう。

 それともずっとベッドから出ない生活になるのかしら。
 それこそ世捨て人ね。

 離れたところから先ほどのジャージ姿の桜川さんが現れた。
 手を振ってここだとアピールして、自分も部屋の中に入った。


「早く会いたくてそのまま来てしまいました。」

 満面の笑みで言う桜川さんが憎らしい。
「私だって早く会いたかった」とは言えない自分は可愛くないと思う。

 それなのに桜川さんは「友恵さんもでしょ?」と言うので「知らない」と返した。

 これが最近は一連の流れのようになっていて、可愛くない自分も案外悪くないと思えるのはさすが桜川さんだなぁと感心する。



 汗を流したいとシャワーを浴びていた桜川さんが出てきた。
 大きめのTシャツを渡したけれど入らなかったらしく腰にタオルを巻いただけだった。

「ご飯でもと思ったんですけど………。」

 今さらながらに目のやり場に困る。

 見ないように努めていても今すぐにでもと思う自分は思春期の男の子だろうか。
 並べていたお皿を置きながら嘲笑する。

「ご飯にする?お風呂にする?それとも…?
 ですか?
 憧れるな。裸にエプロンで。」

 爽やかに言うから勘違いしそうになるけど、ただのエロオヤジだ。

「そういうのはいいですから。」

 蔑ろに扱うとまだ湯気が出ている熱のこもった体で抱きしめられた。

「ご飯は後でいただくので早くベッドに行きたいです。」

 囁かれると従っているのだから、好き者だと思われているかもしれない。

 何より「友恵さんは天邪鬼ですよね」と言われるあたり心とは逆を言っていることはバレているのだろう。