「次の約束は連絡します。」

 鞄を指され、そういえば電話をしたのだからこちらの電話番号を知られたことに気づいた。

「連絡……しない方がいいですか?」

 初めて一緒に帰れた道を手を繋いで歩く。
 それがものすごく恥ずかしくて、だけど胸があたたかくなるから不思議だ。

「電話……出れない時もありますよ?」

「分かっています。」

 鞄の携帯が騒がしくて見てみると亜里沙から何度も着信があったようだった。

「どうぞ。出てください。」

 なんとなく出たくなかったのに勧められては出ないわけにもいかない。
 気が進まないまま電話に出ることにした。

「はい。亜里沙?どうしたの?」

「…………。」

 騒がしい電話の向こう側。
 よく聞き取れない。

 向こうもそう思ったようで移動したらしく少しだけ静かになった。

「友恵さん。先ほどはすみませんでした。」

 声の主は男の人だった。

「福田くん?」

 どうしてこんな時に……。

 そう思っていた友恵の携帯が奪われた。

「友恵さんは僕の恋人です。
 悪さするのは許しません。」

「何するんですか!桜川さん!!」

 怒っているのはこちらなのに桜川さんの方が怒った顔をしていて怯みそうになる。

「僕は友恵さんの恋人じゃないんですか?」

「恋人………ですけど……。
 とにかく携帯を返してください。」

 奪い返した携帯の向こう側で亜里沙のはしゃいだ声が聞こえた。
 どうしてそれだけが鮮明に聞こえるのか。

「友恵さんの恋人が僕の友恵さんだって!」

 後は大騒ぎする声が聞こえて、かけていても仕方ないと電話を切った。

 あの様子だとお店の子達で飲みに行っているのだろう。
 そこで高らかに宣言されて……。

「また眉間にしわがよってます。」

 目と目の間にキスをする桜川さんが恨めしい。
 この騒動は誰のせいなのよ。

「やっぱり次に会う約束。
 今日しておきませんか?」

 嬉しそうな笑顔を向ける桜川さんを冷たく突き離した。

「会う約束なんて知りません。」