「したらまた姿を消すなんてことは………。」

 移動したホテルで髪をタオルで乾かしながら顔を近づける桜川さんの動きが止まった。

 その焦ったい離れたままの距離を埋めるように友恵の方から唇を重ねた。

「今は何も考えないで。お願い。」

 桜川さんは瞼にキスをして「可愛いじゃじゃ馬だね」と笑った。

『可愛い』『綺麗だ』

 恥ずかしくなるような言葉は思えば美容師とお客との勘違いに似ている。

 触れられ褒められてときめく勘違い。

 シャツを脱いだ桜川さんは扇情的で、勘違いだとしても今は色情に飲み込まれてしまいたい。

「僕は友恵さんに側にいて欲しい。
 それが結婚だと……。」

 言葉ごと唇を塞ぐと絡み合う全てに溺れていたかった。
 今一度、耳元で囁いた桜川さんの声は掠れて消えかけて胸を痛くさせた。

「どんな理由でもいいから側に……」

 そこからはまた情欲に溺れていき、望み通り何も考えられなくなった。