「はい!練習〜!
 友恵さんも、とばっちでしたね。」

 亜里沙の声かけでみんなまた練習に戻った。

 もちろん福田くん越しの私をチラチラ気にしながら。

「すみませんでした。
 くだらないことに巻き込んで。」

 くだらない。
 そう。くだらない。

 そのせいで明日から仕事やりづらくなったわ。

 店長は福田くんとできてるんだ。
 貢いでいるんだ。

 そんな視線を感じる針のむしろ。

「予定あるから帰るわね。」

「男ですか?
 そいつと結婚が決まったらこの店俺に下さいよ。」

 背中で受け止めるざわざわは疑いが晴れたというよりも貢いでいるからこのお店も福田くんにあげるの?という噂話。

 それを振り切るようにお店から足早に遠ざかった。

 このお店『も』って何よ。
 お店も何もかもあげないわよ。
 福田くんに貢ぐもんですか。

 友恵は乱暴に携帯を取り出すと電話帳をスクロールした。

 理香子の名字って結婚して何になったんだったかしら。

 理香子を探してスクロールしていた指が止まる。
 目に入った『桜川浩一』という文字。

 無意識に指が動いて電話をかけていた。




 ワンコール鳴ってはたと気付く。
 理香子に愚痴を言うならまだしも、桜川さんに何を話すと言うのか……。

 携帯を握りしめて切った方が……と思ううちに2コール目。
 娘がお父さん全然捕まらないと言っていたじゃない。

 そんな人に電話するなんて。
 本当、何してるのかしら。

 3コール前には切ろう。

「はい。桜川です。
 もしかして………友恵さんですか?」

 どうして。
 どうしてこういう時はすぐ出るのよ。

 想像と違う結果と変わらない穏やかな声。

 何故だか涙がこぼれて小さく口を出た。

「会いたい………。」