「で、何よ。
 イライラは更年期じゃなくて生理前だったってオチ?」

 オープンカフェ。
 心地よい風が吹いて理香子のスカーフを揺らす。

 趣味のいいお店選びはさすがだ。
 ただ、話す内容は似つかわしくない。

「いつにもなくイライラしてたから。」

「そりゃわめき散らす子どもがいたら私だってイライラして子どもを叱りつけるかもね。」

 理香子は昔からの腐れ縁。
 他の友達とも会っていたのだけれど、みんな家庭があったりで会わなくなっていった。

 理香子は今でも会える唯一の友達。

 気づけばみんな結婚していた。
 気づけば自分は1人だった。
 ただそれだけ。

「理香子は結婚しないと思ってたわ。」

「私もよ。
 でも経験しといて損はないかと思って。」

 似た者同士で嫌になることがあるくらいの同族嫌悪しあっている仲。
 ただ理香子は結婚して子どももいる。

「ま、私は結婚して不満があるタイプ。
 友恵は結婚してないから違う悩みがあるだけよ。」

 文句を言いつつ離婚するわけでもなく、他の友達と違って自由に私とランチできる身軽さ。

 たまに羨ましく思うのは寄せる年波に勝てずに心が弱っているのか。
 いいえ。私は私でいいのよ。
 後悔なんてしていない。

 モテなかったわけじゃない。
 それなりに彼氏がいたこともある。

「で?連絡先を一方的に渡されて自分のは教えないって。
 少しくらい楽しみなさいよ。」

 もし妊娠していたらと聞かない桜川さんに折れて連絡先を聞いただけ。

「嫌よ。不倫なんて。」

 妻の立場でもある理香子に言われたら誰が止めてくれるのか。
 理香子なんて、けしかけるような口ぶり。

 話す相手を間違えたかしら。
 浮気、不倫は女の敵よ。

「あら。いいところだけ吸って嫌なところは見ないで済むわ。
 妻に小綺麗に整えられた夫が本当に愛してるのは愛人の自分なんて傑作じゃない。」

 痛い。お腹に響く。
 頭痛だった痛みが今は生理痛になっていた。

 いつも以上に眉間にしわを寄せる。
 桜川さんに指摘されてから気をつけていたのに。