結局脱衣所兼洗面所のドアのカギと浴室の鍵を閉めてシャワーを浴びた。
クローゼットの中にあった何枚かの衣類のうち紺色のワンピースをお借りして階下に降りた。

「ああ、お嬢さま」
キッチンで料理をしていた元林さんが私の姿を見て笑顔を見せた。

「クローゼットの中のお洋服をお借りしました」

「サイズはよかったみたいですね」元林さんはまた嬉しそうな顔をした。

「ええ、ぴったり」

「では食事にしましょう。お座りください」

私は黙ってダイニングの椅子に座った。
目の前には野菜スープとベーコンとチーズのオムレツ、クロワッサン、リンゴとトマトとアボカドのサラダ、このドレッシングの中に入ってるのは粗挽きのミックスペッパーとレモン果汁だろう。それと紅茶。

「なんか、私が作る朝ご飯より完璧だわ」

ため息をつくと元林さんは笑った。

「お嬢さまの好みに合わせて作ったのですから気に入ってもらえないと困ります。さあお召し上がりください」

頷いてありがたく頂く。

8割ほど食べたところで「私って誘拐されたの?」と聞いてみた。

「ある意味ではそうですが、正確には違います」

「この状態は何?」

「私がお嬢さまを一時的に逃がしたというか保護した…という感じですね」

日本の法律用語としての「誘拐」とは、欺く行為や誘惑を手段として、他人の身柄を自己の実力的支配内に移すことを言う。

「それは私がパーティーから逃げたから?」

「正確には違いますね」

私は首をかしげて全部話して欲しいとお願いした。