「元林さん、喉が渇いたんだけど、お水をもらえない?」

試しにお願いしてみた。
私の知っている元林さんなら私のお願いを聞いてくれるはずだ。

「ああ、気が付かなくて申し訳ありません。今お持ちしますね」

そう言って立ち上がり、部屋から出て行った。

私は素早く周囲を見渡した。

多くの間接照明が点けられた部屋。明るすぎず暗くもない。

20畳近くありそうな広いリビングルーム。
フローリングの床にはカーペットが引かれておらず、合板製でもないように見える。
天然木のフローリングみたいだ。

大きな窓には天井から床まで分厚いカーテンがひかれ昼なのか夜なのかもわからない。
ここが1階であるのかどうかもわからない。

周囲の物音は何も聞こえない。

私の寝ている大型のソファのほかに元林さんが座っていたソファ。その間にテーブル。
そしてローチェストが1つ。

どれもなかなか良いもののように感じる。このソファはかなりクッション性がいいし。

でも、ここは人が住んでいるような気配が薄い。
生活感がないのだ。

テレビも電話も時計もない。雑誌や箱のティッシュペーパーとか生活していたら何か置いてあるだろうと思われるものがここには何もない。

ホテルとも違うようだ。

さて、ここはどこなんだろうか。
私はどの位眠っていたのだろうか。

圭介、心配してるだろうな。振り切って逃げたあげくに拉致されるなんて最悪だ。
修一郎さんはどうだろう。

私よりも片岡さんの方がよくなって厄介払いが出来たって思ってないかな。

まだ身体に薬が残っていてだるいし眠い。
虚ろな目でボーッとしていると、元林さんがペットボトルを手に戻ってきた。

「お嬢さまがお好きなミネラルウォーターです」

見れば長野県の天然水。私が実家でいつも飲んでいたものだ。

なぜだろう、たぶん元林さんに拉致されているのだろうけれど、あまり恐怖感がない。
もしかしたら拉致ではないのかも。