「んっ!」

有無を言わさんとばかりに、五十嵐さんは私の唇を塞いだ。
何度も角度を変えながら、蕩けるような甘いキスが次々と降ってくる。


「早く俺に落ちてこい」

エレベーターの扉が開く直前でようやく二人の距離が少しだけ離れる。


「行くぞ」

手を繋がれて引っ張られていく私の顔は、相当赤くなっているに違いない。
対する五十嵐さんの表情は余裕綽々で満足げだ。

その場にいた社員たちに遠巻きに見られながら、私たちは会社を後にした。





週明けの月曜日。
私はかなり気怠い身体を引きずるようにしながら会社に向かっている。

会社、行きたくない。

どんよりと肩を落としながら歩く私の隣には、朝から楽しそうに笑っている愛ちゃんが颯爽と歩いている。


「奏美にはあれくらい強引に引っ張ってくれる人が合うんだよ」


「そうかな?」

多少、強引過ぎるような気もするけれど。


「それにしても、左手薬指が眩しい~!」

愛ちゃんは目をキラキラさせながら、私の左手薬指を指差した。
そこには某高級ブランドの、いわゆる婚約指輪が嵌まっている。


「なになに?あの王子様が跪いて嵌めてくれたとか?」


「ううん、朝起きたら嵌められてた」

愛ちゃんの目がさらにキラキラ輝く。
言ってから後悔した。
けれど、もう遅い。