あなたは、私の目指すべき人で、憧れの人です。


貴方との繋がりがまだあるなら、会社辞めません。

勝手に想っているだけなら許してくれますか?

『お前、迎えに来たぞ!』

大きな足音とともに、部屋に入って来た先輩。

今は、NY本社に異動になって日本に帰って来ないはずなのに…


私の今の仕事は、1人で不要紙をひたすら細かくハサミで切る事。
いわゆる、追い出し部屋に私のデスクがある。

1週間前から、この部屋にお世話になっている。

理由は、接待で相手先のセクハラ専務を
引っ叩いてしまったから。

私の上司は、それぐらい減るもんじゃない喜んで差し出せと物凄く怒られた。

だけど、先輩から口酸っぱく言われていた事を守っただけ。

『いいか?女だからって簡単にカラダ出すなよ。相手は自分が上だから、何言っても許される特にセクハラに関しては、そう思っている輩もいる。
だけど、負けるな。
全部実力で、仕事しろ。
必ず、誰か見ていてくれる人がいる。』

だけど、現実は上手くいかなかった。
上司からは、異動を命じられ、
同僚は、怒らせた相手先の対応に追われ、余計な仕事、増やしやがってみたいな事を言われた。

何が正解だったのか?

でも、絶対。会社を辞めたくなかった。
ここで会社を辞めたら、セクハラにもこの会社にも負けたように思えたから。
会社に居続けたら、いつかは先輩に会えるかもしれない。

私の新人指導が先輩だった。
めちゃめちゃ、かっこよくて皆んなから羨ましがられた。
だけど、先輩は鬼の様に厳しく、
先輩の容姿を見て、うっとりなんて出来る暇もないほど、しごきに近い指導を受けた。
もともと負けず嫌いな性格もあり、毎日この野郎!と思いながら必死についていった。
するとだんだん、仕事が楽しくなり、相手先の会社の人に顔を覚えてもらえる様になり、達成感と充足感でいっぱいになった。

先輩は怖いし口悪いし、性格ひん曲がってるけど、誰よりも仕事が出来て、私の仕事が上手くいくと必ず私以外に喜んで、褒めてくれた。

私が、ストーカー被害にあった時も、
助けてくれたし
いつもいろんな事を助けてもらった。

そんな先輩を好きにいられずにはいられなかった。だけど、先輩には向こうに好きな人がいたから、先輩への想いは心にしまっていた。
そんな時先輩の異動が決まり、ショックだったけど、先輩の活躍が認められての事だから、今度は私のことの様に喜んで、先輩を感謝を込めてお見送りした。



毎日毎日手動シュレッダーをしているわけだけど、案外これも楽しかったりする。
今日も、フンフフーン♩と鼻歌歌いながら、チョキチョキ切っている。

そして、冒頭に戻る。
『お前、何で異動になったこと俺に言わなかった?
しかも、理不尽なことされてここに追い出されたのに、何鼻歌歌ってんだ!

こんなところで、腐ってんな!
お前をこんなところで終わらせるために指導して来たわけじゃねぇ!』

と大声出して、先輩は私の腕を掴んで元の部署にやって来た。

『部長、貴方を見損ないました。
部下がセクハラされたのに、喜んで差し出せ?男の風上にもおけない。
だいたい、接待は2人で1組が絶対なはずです!どうしてここいる誰も彼女と同行しなかった?

みんなだんまりか
理由は、何なのかも知っている!
俺は、こんな会社で働いてたんだな!
今までお世話になりました』

ドンッ!と退職願を部長の机に叩きつけて行くぞ!と再び私の腕を掴んで、追い出し部屋に戻った。

『腹減ったわー、もうすぐ定時だろ?
飯食って帰るぞ!』

結局、一番中途半端なのは私だった。
涙を流さない。先輩と約束した事だから。
でも、悔しさともどかしさで涙が溢れそう。後ろからフワッと抱きしめられた。

『俺が帰ってくるまでよく頑張ったな。
えらかった、本当にえらかった
俺のいった事をちゃんと守っただけだ
お前は何も気にする事ない
全てあいつらが悪い
今日は、いっぱい泣け
気がすむまで、一緒にいてやる』

それからは、メイクなんてドロドロのグチャグチャでみれたもんじゃないけど、先輩の胸に抱きしめられながら、ワンワン泣いた。

泣いて泣いて、少しホッとした時
社長がおいでになった。
とっさのことで、先輩の背後に隠れてしまった。

『社長がたまたま聞いててな。
お前から再度話を聞きたいそうだ
追い出し部屋が出来たことさえ、本社は知らなかったからな
話してくれるか?』

恐る恐る先輩を伺うと、大丈夫だと目で合図してくれた。

起きた事をすべて話した。
正直、部長や同僚に報復とか恐ろしい事は考えていない。
みんなを納得させられるだけの実力が私になかった事に原因がある。

そこも含めて、社長には話した。

それから、先輩と会社近くのラーメン屋に食べに行った。

先輩がいた時は、仕事が上手く行ったらいつもこのラーメン屋に来ていた。

たらふく食べて、少しあるかないかと言われ、近くの公園に行く事にした。

何で、こっちに帰って来たのか?理由を聞いたら、

『そんなの当たり前だろ
お前を迎えに来たんだよ!
もちろん、お前の異動を知って予定よりは早まったけど…

あのな!俺はなお前を連れて行くつもりだったんだよ!
なのに、お前好きなやついるって休憩室で話してるの聞いてさ
それが誰なのか、年甲斐もなく、ビビって聞けなかった

だけど、夢でお前が泣いてる夢を何回も見るから、気になって仕方なくて、何かあったか調べたら、今回のことがわかった

だから、お前を迎えに来たんだよ
俺と一緒に来るよな?』

その前に、私は大事な事を聞かないといけない。先輩の好きな人だ。
ブロンドヘアのボンッ!キュッ!ボンッ!な女性と婚約しているとか何とか風の便りで聞いたから。

迎えに来たんだよって言われたら、私の勘違いだけが先走ってしまいそうで、怖い。

すると、そんな奴いないわ!と頭叩かれた。地味に痛い…

『俺の好きな人は、お前だよ!』

今度は私が素直になる番。
私の好きな人は、先輩です。


それからあっという間に、日本を飛び立つ日がやって来た。

セクハラ専務は、解雇され
私のいた部署は、部長と一部の社員が地方営業所に飛ばされたらしい。

短期間にこんなことできる先輩は、おぞましいけど、いつもピンチの時は助けてくれる私だけのヒーローです。