私は、もうすぐ好きでもない人と結婚する。


今時珍しい、政略結婚。
もう変えられない事実。
抗う事もやめた。

それでのも飲まずにはいられず。
毎晩、近所のバーに飲みに行った。

『お嬢さん?もしかしてお困りです?
良かったら、力を貸しましょうか?』

顔なじみのバーテンダー
女1人で飲んでたら、ナンパ待ちと思われても仕方ないけど、バーテンダーにナンパされるとは思わなかった。

フンっと鼻で笑って、無視をした。
気がついたら、私以外お客はおらず
1人でずっと飲んでるから早く帰って欲しいんだと思ったので帰ろうとした。

『今日はもう、営業してないから
思う存分飲んでいいよ』

危ない匂いしかしないから、帰ろうとしたけど、思いの外酔いが回っていた。

ぶつかる!って思っても、どこも痛くない。

バーテンダーに抱きとめられていた。

『大丈夫か?』と優しく耳元で囁かれた。

彼に、支えられさっき座っていたカウンターからソファー席に移された。

『これ飲んで、落ち着け』

ミネラルウォーターを渡されそれをゴクゴク飲む私。

頭がスッキリしてきた。お店closeにしてくれててよかった。
もう落ち着いたから、帰ろうとしたら

『君は、何をそんなに思いつめているの?』

と尋ねられた。何もと答えると

『バーカウンターから、お客さんを毎日見てたら、その客が今日何があったかだいたいわかる。君の場合は、毎日思いつめている。知らない赤の他人に話ししてみたら?』

何を今更とも思うけど、どこかで聞いて欲しかったのかも。

彼にすべて話した。

自分が養女で、10歳の時今の両親の子になった。
今の両親はとてもいい人で、私のこと大事に育ててくれた。
私が結婚することで、両親のやってる繊維会社は、盛り返す。
だから、諦めて結婚するしかない。
不完全燃焼のまま、結婚する。

黙って、私の話に耳を傾けてくれる彼。
すべて話を聞き終わった途端おもむろに口を開いた。

『よかった、別れさせ屋しようか?
付き合っていることにして、駆け落ちごっこでもする?そこで破談が成功したら、君は晴れて自由になる。これどう?』

そんなことうまくいきっこない。
無理だと思って、断ろうとしたけど
『今しか、チャンスないよ?』と悪魔の囁きにた声がした。

そして、バーテンダーの彼は、私のフェイクの彼となった。

フェイクの彼ってことを忘れてしてしまうほど、彼との日々は楽しい。
水族館や映画館
おしゃれなカフェや行列のできるラーメン屋さん
いろんなところに連れて行ってくれて、
彼の人となりを知る機会が増えれば増えるほど、彼に惹かれずにはいられなかった。



結婚相手は、私と彼の関係を解消するように、何度も迫ってきた。
私は、両親にも結婚相手にも結婚する気は無いときっぱり伝えて、破談してもらうように何度も頼んだ。

訴えは、聞いては貰えないまま
結婚式が1週間後に迫ってきた。

私は、もう諦めきってきたけど
彼は違った。
『自由になることを諦めるな
俺とどこかで遠くへ行こう』

それから、2人で駆け落ちの準備をし、
東京から遠く離れた
見知らぬ土地に降り立った。

これからどうするかとか何にもなく
ほぼ、着の身着のまま。
2人お揃いのスマホもだけ持って。


だけど、私は彼と一緒だから怖く無いと思った。

とりあえず、ペンションに泊まって
これからの住むところとか相談しあった。

すると彼は、ポケットから指輪を取り出した。

『こんな形になってからで、
申し訳ないけど、
貴方に心底惚れています。
これから、2人で一緒に生きて行こう』

そう言い、私の薬指に指輪を通してくれた。
綺麗な、ダイアモンドの指輪。
彼の亡くなったご両親の形見だそうだ。

私は本当に大好きな彼と時を共にできることに心から感謝した。

その夜は、2人体温を分け合い。
朝まで、お互いの存在を確かめ合った。

だけど、そんな幸せな時は
いつまでも続かなかった。

この地に、降り立って4日ほどたった朝
隣で眠る彼の姿がなく、近くのコンビニでも行ったのかと思い連絡をしようとしたら、彼からメッセージが送られきた。

何々?と、メッセージアプリをひらけるとそこには、血だらけの彼の写真が送られてきた。

泊まっているペンションから、近くの廃校舎だった。
急いで彼の元へ向かった。

心臓が潰れそうになりながら、彼の元へ駆け寄った。
息も絶え絶えに血だらけで、横たわっている。


汚い笑い声と共に元婚約者がやって来た。

これ以上彼に手を出されたくなければ、大人しく自分と結婚するようにと言ってきた。

私は、全力で拒否した。
彼と一緒に生きられないから、死んだ方がマシだ。
私は、彼の体を抱きしめ離さなかった。
彼もまた私を強く抱きしめてくれた。

彼が私の体を包み込んだ時
パンッ!と銃声が響いて、彼の背中がしなった。
一瞬なんのことかわからなかったが、
元婚約者の狂ったような笑い声で気がついた。

『愛しているよ…ありがとうな』
そう言って、彼は生き絶えた。

どうして?神様
どうして私から彼を奪っていくの?
どうして私は彼と幸せになりたかっただけなのにどうして許してくれないの?


元婚約者に抱き抱えられた瞬間、
拳銃を奪い、奴を撃った。

それから、彼の元へ行き
自分の心臓に銃口を当て、撃った。

血飛沫だけが綺麗に地面に広がった。

神様、私は貴方を恨みます
だけど、貴方に感謝もしています。


心から愛せる人に出会えました。
もっと早くに別の形で出会いたかった
だけど、最期は彼と一緒に迎えられました。

ありがとう。
さようなら。