「行ってきます」


玄関を出ると、春の風が私の頬を撫でた。

どこからか花の香りもする。

つい最近まで寒さが厳しいと思っていたけれど、いつの間にかすっかり春が訪れていたようだ。


「………まあ、もう春休みだもんね」


それが終わると私は大学生。

時の流れは本当に早い。


そして、人の変化も。



***


待ち合わせ場所にはずいぶん早く着いてしまった。

相手の姿はまだ見えない。

とりあえず、手頃な場所に腰掛けて待つことにした。

桜の木の下にあるベンチ。 

ほどよく陰になっているし、なにより咲き始めた桜の花がよく見える。

たまたま空いているから座ったが、かなりいい場所を手に入れたかもしれない。


ベンチに座り、風に舞う桜の花や、流れる雲、行き交う人をぼんやり見つめる。

うららかな春の日。

世界がとても美しく見える。


出来ることなら。


この世界をあなたの隣で眺めたい。