「……あ、そうだ。笠原さん。これから時間ある?」


練習がおわったあと、冬室くんにそう聞かれる。

私は内心ドキドキしながら『大丈夫だよ』とうなずいた。


「僕、図書室に寄ってから帰ろうと思うんだけど。ほら、この前借りた本を返しに。
……それで笠原さん、次借りたいって言ってたよね」

「……あ」


そうだ。野田秀樹。

会話の流れでなんとなく言ったことだったけれど、覚えていてくれたんだ。


「……うん。そうだね、借りたい……」

「じゃあ、一緒に行こう。いいかな?」

「………うん」


私たちは並んで図書室に向かい、約束通り、私は彼の借りていた本を借りた。


……それを、見られていることも知らず。



***

「私、戯曲って初めて……」
 

本を借りて、私たちはそのまま一緒に帰る。

バス停までの短い距離。話題は今借りた本のことだ。


「……いくつか違う話が入っているんだね。冬室くんはどの話が好き?」

「………どれも面白いけど、やっぱり『Right Eye』かな……」

「ライトアイ?」