「前のブザービーターは彼女のためってわけじゃないだろうけど今回のはどうかなぁ。」

 ニマニマしている大悟はうっとうしい。
 本人の前で言うとかありえない。

 睨んでみても素知らぬ顔だし。
 んっとに食えない奴。

「で、千尋ちゃんは本当にいいの?
 バスケ選手の方じゃなくて。
 千尋ちゃんなら恵まれた身長してるし。」

 背があればいいってもんでもない。

 お前がチビの将来に口出しするな。
 出していいのは俺だけだ。

「うん。やりたいこと見つけたから。」

 照れながら、でも凛とした顔でそう言ったチビを綺麗だと思った。
 あぁ……。俺はどんだけこいつを……。

「千尋ならいいトレーナーになれる。」

 チビを見ると微かに赤くなっていた。

 こういう時だけ『千尋』って呼ぶなんてずるいって思っているのがよく分かる。

 普段は照れるから言えないだけで、だいたいチビも俺のことまだ『望夢』って呼んだのは数えるほどで………。

「俺、専属。」

 後ろからもたれるように抱きしめて、大悟たちにお邪魔なんだよってアピールする。
 大悟の呆れ顔が視界に入っても構ってられるか。

 俺たちはまだまだ2人の時間が足りないんだよ。

「はいはい。
 真央ちゃん。俺ら先に帰ってよ。」

 大悟が肩を竦めて出て行った。
 その背中がまだ消えないうちから耳元で囁く。

「やっと2人きり。」

 ビクッと肩を揺らしたチビの頬に唇を添えた。

 スポーツトレーナーになろうかなって相談を受けた時は正直嬉しかった。
 俺だけのためじゃないって言いながらも真っ赤になるチビが愛おしくて………。

 絶対に離さないって決めたんだ。

「千尋……。」

「……うん。恥ずかしい。」

 唇にキスをして「望夢って呼んで」って消えかけた声でお願いする。
 俺よりも消えそうな声が聞こえてギュッと強く抱きしめた。

 そしてもう一度キスをした。
 ブザービーターは千尋のためだよって囁いた後に。