「イテッ。」

 引っ張られて連れてこられたのは人がいない校舎の裏。

 怒っているようなチビに乱暴に連れてこられた。
 怒っている理由が分からない。

「王様の護衛って大悟先生のこと?」

 変な質問に返事をしないでいるとギョッとする。
 目の前でボロボロと涙を流し始めた。

「のんちゃん。死んだら嫌だからね。
 私、裏山の展望台に登りたい。」

「…登れば。イテッ。」

 たたかれて意味が分からない。

「のんちゃんと登るの!」

「…嫌だ。」

「なんで!」

「疲れるの嫌い。」

 プッと今度は笑い出した。
 本当、変な奴。

「じゃ私がレギュラーになれたら。
 ご褒美で。」

 腹筋ができていなかった光景を思い出して首を縦に振った。

「約束だからね。」

 小指を出して来たチビは子供だと思う。
 約束で指切りって…。

「大悟と一緒。」

「え?」


 のんちゃん死ぬなよ。
 約束だかんな。

 指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます。

 千本飲んだら死ぬ。

 ……それなし。


「プッ。」

「…笑った!」

 嬉しそうなチビの顔は初夏の日差しに輝いて涙に濡れた頬が光っていた。