「知ってる?
 感電死って綺麗に死ねて苦痛も一瞬だから割といい死に方なんだってよ。
 コンセントにつないだ片方の電線出してさ。」

 学生同士のたわいない会話が聞こえた。

 そういう時期だよな。
 多感な時期っていうかさ。

 本気で死ぬ気があるわけじゃない。
 ただ『死にたい』とか無意味に口に出したいだけ。

「なぁ。あれなんだと思う?
 水の中に携帯が沈んでるけど。」

 おいおい。

「拾ってやった方がいいんじゃね?
 もう遅いかもしれないけどさ。」

 ぐっと声の主を引っ張ると「何?なんだ?」と騒がしい声がうるさい。

 手洗いの排水口が何かでつまって水が溜まっている。
 その中に入っている携帯。

 そしてその水にコード。
 コードの先は電線がむき出しだ。

 あぁ。そうかよ。それを俺に拾えって?

 馬鹿馬鹿しくて手を伸ばした。

 別にそれで良かった。
 そしたら煩わしい声も何もかも聞こえなくなる。

 しかし手を伸ばしたその手を誰かにつかまれた。

「何するの?
 もしかしたら感電しちゃうのかもしれないのに。」

 こいつ馬鹿だと思う。
 手をつかんだのはチビだった。

 感電するわけがない。
 だいたいさっきの話の後にこんなに都合よく…。

 後からやってきた大悟が小枝を拾って水を堰き止めていた詰まりを取り除いたみたいだ。
 そのまま小枝でつかんだ携帯を土の上に置いている。

 放電のつもりか?
 大悟も大悟だよ。

「これ俺の携帯だ。嫌んなっちゃうぜ。」

 何事もなかったように笑う大悟に周りの学生も「ドジだなぁ」と笑っている。

 ただ1人を除いては。