声にした瞬間、ガラスがのどに突き刺さった気がした。
「おばあちゃん、あんなに頑張って一人で切り盛りしてるのにっ……私は現実を受け止めたくなくて、逃げてばっかりで……」
 自分がひどく汚い人間に思えた。私がおばあちゃんのことを守ってあげるという約束を、おじいちゃんと交わしたはずなのに。それなのに。こんなことを思うなんて、私はなんて冷血なんだ。浮かんでくるのはどれも自分を責める言葉ばかり。
 日向君には、もうこんな汚い自分とっくに知られているというのに、バカみたいに必死にしゃべった。言葉にして伝えたかった。隠したくなかった、日向君だけには。
「もういいよっ……っ」
 その瞬間、ふわっとあたたかいものに包まれた。鮮明に聞こえる、日向君の声と鼓動。胸が締めつけられるような思いにかられた。
「ありがとう。話してくれて。気持ちを読んでしまった俺の罪悪感も消すために話してくれたんでしょ?」
 日向君は、私のことなんて全部お見通しだった。頷きも否定もせずに黙っていたら、更に私を強く抱き締めて、ありがとう、ともう一度日向君はささやいた。その瞬間、さっきまで心の中にあった黒いかたまりが嘘みたいに溶けていった。
「……ゆっくりでいいと思うよ。俺は」
 日向君の声は、どこまでも落ち着いていて、深い海のように穏やかで優しい。
「人の死を受け入れるのは、何十年かかっても俺はできないかもしれない。その人が大切だった分、時間もかかる。だから焦らなくて大丈夫だよ。また泣いたっていいんだ」
 私はずっと、この言葉を今まで待っていたのかもしれない。今まで私をかたくなにしばり続けていたものから、解放された気がした。私はきっと誰かに許してもらいたかったんだ。大丈夫だよ。泣いてもいいんだよって。
「日向くん……ありがとうっ……」
 日向君は頷く代わりに私の涙を細い指で拭い取ってくれた。その手は私の耳に触れ、髪に触れ、徐々に移動していく。それに比例して私の心臓も音を速めていった。
「ひ、日向君……っ?」
 指が顎に到達したとき、視線が交差した。透明で、吸い込まれそうな瞳に私は見とれてしまい、言葉を失いかけたが、すぐに我に帰った。
「中野っ……行こう。店長が待ってるよ。何か、あったんでしょ?」
 日向君が私の頭を撫でて、そう言ったからだ。
「うん」
 私は力強く返事をしておばあちゃんの元へ向かった。道路を渡ってから、あの四角い光へと向かう。そのとき、日向君は何か言いたげな顔をしていたけれど、それはほんの一瞬だったので、私は問うこともできなかった。