「放しなさいよ!」
八つ当たりだろうと、痴漢に遠慮なんてしない。
やっと一人になれたこの空間を台無しにした痴漢の好きになんてさせない。

私は痴漢の手を何とか振りほどいて走り出した。
後ろからぶつかられたのか押されたのか、勢いでこけて、石段におでこをぶつけた。
「痛っ…!」
手で押さえると真っ赤になった。
背後からその手を見て、男は「うわっ」と止まった。
「そっ、そっちが勝手にこけたんだからなっ…!」
男が走っていくのを見ると、ホッとして力が抜けてしまい、動けなくなった。

しばらくしたら花屋のおばさんが私に気が付いた。
お店に連れていかれ、救急車を呼んでくれた。警察にも連絡してくれた。

「ケガもしてるし、ご家族か誰か呼べないの?」
おばさんに促されて自分に都合よく考えた。

翔さん、電話していいかな。

今日はもういっぱいいっぱいで、翔さんに甘えたい。