「ごめん、ヤキモチやいてた。佐川先生、かわいいし、感じいいし、若いし…」
俯いてつぶやくように言い訳をした。
「何?年上なの、気にしてるの?」
苦笑しながら頭を撫でられる。
「鈴音ちゃんからヤキモチやかれるなんて、予想外だ」
「大人げないね」
「かわいいよ」
やさしい声で囁かれる。

「こっち向いて」
顔を上げると、ゆっくり翔さんの顔が近づいてくる。
目を閉じると、雨の音が大きく感じられた。
唇が重なった。
やさしいキスだった。
気持ちがやわらかく包まれる。

唇を離してから顔を覗き込んでくる。
「ゆっくり進めすぎたかな。鈴音ちゃんは考えが先走るところがあるから、形から入るほうがいいのかもね」

その表情はもう怒ってもなく、悲しそうでもなく、はにかんだ笑顔。

仮にも元・人妻の私のキスひとつで、かわいいのはそっちだよ。
そして、そこに付け込まない高潔さ、そこが翔さんなんだと感じる。