七月も半ばを過ぎたある日の午前中。

我が部署のホープ吉田は、わたしの隣のデスクで突然にこんなことを言った。

「私もうじき、この会社辞めるかもしれません」

わたしは驚き、思わず指がその時入力していたキーボードの『O』の上で硬直してしまって、『おおおおおお……』と間抜けに打ってしまう。

「なんで? この仕事、肌に合わない?」

バックスペースキーを押し、連なる『お』を消しながら訊いてみる。

「いえ。そういうんじゃ……」

吉田にいつもの覇気がなく、言葉尻弱く言ったため、わたしには尻すぼんだ後半部分が聞き取れなかった。

わたしは今週一度、例の恒例行事を催していて、しかもそれが昨日だったため、その時なにかあったのかと思って、続けざま訊いた。

「昨日、なんかあったの?」

すると吉田は、いつもの正直な反応ではなく、どちらかというと嘘っぽい笑顔をつくった。

「別にそういうわけじゃないんです。ごめんなさい。石野さん、今の話し、やっぱなかったことに。早まったこと言ってしまいました。よく考えたら、それほどでもないんです。ごめんなさい」

そして、なんだか謝って、仕事を再開したのだった。