「栗原!佐野の企画書の資料持って来い!」

今日も鬼部長は健在。
私は資料をかき集めて、鬼部長こと篠宮部長と佐野主任のいる会議室に入る。

「佐野の企画、通すぞ」

篠宮部長は低音ボイスで呟く。
佐野主任は「やった!」と両手でガッツポーズしてる。

私は笑いを堪えきれなかった。
だって、篠宮部長が資料を見ながら、さっきのプリンを食べてるから。
鬼部長がプリン食べてるなんて!
「あははは!」
目の前の光景が私のツボにはまった。
笑いが止まらない。

「なんだよ」
篠宮部長が怪訝そうに私を見る。
「俺は甘いもの好きなんだよ」
その一言に、ますます笑いが止まらない。
笑いすぎて瞼に涙が浮かんできた。
「篠宮部長が甘いもの好きだなんて、ギャップありすぎです」
私は眼鏡を外し、瞼をハンカチで軽く押さえた。

「栗原」
篠宮部長はじーっと私を見ている。
ヤバい。
さすがに怒られるかな。
眼鏡をかけて、口を閉じた。
「栗原、眼鏡外すと雰囲気違うな」
「はい?」
「眼鏡ないほうがいいと思うぞ」
「はぁ。でも眼鏡ないと全く見えないんです」
「あ、そう」

なんだ。怒られるのかと思ったけど、まぁ、いっか。
眼鏡は私の必須アイテムなんだから。

佐野主任もさっきからニヤニヤ笑ってるじゃん。
やっぱり面白いよね!

あれ?
そういえば、篠宮部長って今まで甘いもの食べてたことあったっけ?
うーん、記憶にないなぁ。
無理もないか。
だって苦手な上司だし。
興味ないし。

篠宮和真、30歳。
ヒメ株式会社の企画広報部部長。
別名は鬼部長。
甘いもの好きみたい。
こんなイケメンだけど、独身。

私の苦手な上司であることには間違いない。