——……可愛い。すっごく可愛い。……さわってみたい。

胸が熱くてたまらない。こんな気持ちは初めてだった。

離宮でずっと幽閉生活を送ってきたギルバートは、強い欲求も覚えたことがなければ、頬が緩んでしまうほど何かを愛しく思うこともなかった。

初めて知る感情に戸惑いつつも、心はまるで十二年分の活力を取り戻すかのように高揚している。

さわったら起きてしまうだろうかという心配はあったが、どうしても湧き出る欲望に抗えなかった。

ギルバートは手を伸ばし、そっとリリアンの頬を指でつついてみる。

——うわ、柔らかい。スベスベしてる。

その感触に、湧き出る欲望がさらに大きくなる。
掌で包んで撫でてみたい、頬を摺り寄せてみたい、舌で舐めてみて本当にミルクブランマンジェのように甘いのか確かめてみたい。

けれど、さすがにそれでは少女を起こしてしまうと思い、ギルバートは必死に自分の欲望に蓋をした。そのかわり、シーツの上で波打っている栗色の髪にそっと触れてみた。

——髪も柔らかい。サラサラしてて、ずっと撫でていたい。

思わずうっとりと目を細めて、繰り返し髪を指で梳いてしまった。すると、穏やかにたてられていた寝息が一瞬途切れ、少女が「ん……」と身じろぎする。

慌てて手を離すと少女は再び規則正しい寝息をたて始めた。ギルバートはホッと息を吐き出し、今度はただ彼女の寝顔を見つめ続けた。

——可愛いなあ。ずっと眺めてたい。思い切って起こしちゃおうかな。どんな瞳の色をして、どんな声で喋るのか、早く確かめたくてたまらないよ。

ギルバートの中で様々な期待が膨らむ。この少女はギルバートを前にしてどんな話をするのだろうか。これからしばらく共に暮らす中で、どんな存在になっていくのだろうか。

テーブルに置いてある人形で一緒に遊ぼうと誘ってくれるだろうか。それとも部屋に飾る野の花を一緒に摘みに行こうと手を取ってくれるだろうか。内気な子だろうか。明るい子だろうか。

——僕のことを、好きになってくれるだろうか。